慢性疲労症候群入門

慢性疲労症候群 & 線維筋痛症を管理する方法
出典:Managing Chronic Fatigue Syndrome and Fibromyalgia: 2010 edition
on ME/CFS & FIBROMYALGIA Self-Help

第31章 新たな考えと新しい習慣

CFSあるいは線維筋痛症を抱えてうまく生活するためには、我々が考えること、することの両方を変える必要があります。この章はその両方を論じます。我々は最初に心的適応を論じ、次にどのように習慣的行動を変えるかを論じます。

我々は、この本の至るところで心的適応の例をたくさん見てきました。一つはペーシングの議論で出てきました。制限内で生活するために、我々は自分の期待を現在の能力に合うように調整しなくてはなりません。また、自分との対話を変えることは疼痛を軽減する一つの方法だということも分かりました。なぜなら、否定的考えをくよくよ考えることは疼痛感を深めるからです。同様に、主観的な疼痛感は、否定的考えと関連している感情(憂鬱や不安など)によって深まるので、自分の考えを変えて感情を管理することは、疼痛をコントロールする一つの方法となります。また、元気づける言葉を自身に言うことで、ぶり返しの最中に経験する肉体的・精神的苦痛を軽減させることができます。

心的適応はストレスコントロールにも重要です。なぜなら考えはストレスの原因となり得るからです。例えば、もしあなたが、病気になる前に「良き妻」あるいは「良き母」としてしていた家事をすべきである、あるいは他の方法でもっと貢献すべきであると考えてストレスを感じるならば、自らの期待を新しい制限に合うように変えて、ストレスを軽減させることができます。

3ステップのアプローチ

今から学ぶ3ステップのアプローチで、あなたの考えを変える方法を説明します。これは苦痛を増やすのではなく、本当にあなたを助けます。自分の置かれた状況に現実的な考えを持てば、ペースを保つ助けとなり、疼痛とストレス、ぶり返しの苦痛が軽減されるでしょう。

我々は自分との対話、つまり心の中のつぶやきに焦点を合わせます。心の中のつぶやきは、出合った経験に反応する一つの習慣的な手段であり、しばしば非常に悲観的になる内面の批判家です。例えば、もしあなたの病気がぶり返したなら、あなたの内なる声は「自分は決して治らない。何に挑戦しても、いつも失敗する」と言うかもしれません。時々この内なる声は、前向きな方向に人を誤らせます。「この新しい治療法ならば確実に治る」と言う場合です。

心の中のつぶやきが、気分と自尊心に大きな影響を与えることがあります。否定的考えで人は必要以上に不安になり、悲しくなり、絶望的になります。これら感情のせいで、今度は、建設的に行動することが難しくなります。精神的苦痛ばかりに気を取られていると、症状が悪化し、否定的考えがもっと生まれる可能性さえあります。この悪循環は非常にやる気をそぐことがあり、やる気を起こすのが難しくなります。同様に、非現実的な回復への希望と失望の循環も、やる気をそぐことがあります。

無意識の考えを認識する

習慣になっている自分の考えを変える最初のステップは、その考えを認識することです。これは容易なことではありません。なぜなら我々は無意識に考えるからです。そしてそれは心に深く根ざしているので当たり前に思えるからです。しかし、考えを認識できるならば、考えから少し距離を置いて、その当たり前に思える特徴を取り除きます。

私がこれから概略する、無意識の考えを認識し、徐々に変えていくという技術は Thought Record (思考記録表)を使います。これは Dennis Greenberger と Christine Padesky の共著 Mind Over Mood (『鬱と不安の認知療法練習帳』)に記述されています。この用紙を使えば、無意識の考えと、それが気持ちや行動に及ぼす影響に気付く一つの方法が提供されます。 Martin Seligman 著の Learned Optimism (『オプティミストはなぜ成功するか』)、 David Burns 著の Feeling Good (『いやな気分よ、さようなら』)などの他の本にも同様の技術があります。また、認知療法を専門にする心理学者から技術を習得することができます。

この技術の使い方を知るために、一人の女性患者がある日散歩して、家に着いたら猛烈な疲労に襲われたと想像してみてください。憂鬱で絶望的になり、そのとき、どんな考えが自分の頭に浮かんだか、彼女は考えてみました。その考えは「もう絶対良くならない。何に挑戦してもいつも失敗する」でした。「思考記録表」(下表、参照)の最初から三つの列に、彼女は自分の経験を記録しました。列1には出来事を記述しました。2番目の列には出来事があったときの自分の感情を記録しました。そして3番目の列には、感情が最も強かったときに、頭に浮かんだ考えを書きました。

思考記録表 #1
1 2 3
出来事 感情 最初の考え
30分散歩する。そのあと猛烈な疲労。 憂鬱。絶望的 もう絶対良くならない。何に挑戦してもいつも失敗する。

この練習の目的は、あなたが考えから少し距離を置くのを助けること、考えの当然のことと思われるあるいは当たり前に思える特徴を取り除くことにあります。無意識に考えてしまうので、認識するのが大変難しく、このスキル(技能)を身につけるまで少し時間がかかります。無意識の考えをとらえるために、気落ちさせるような出来事が起きたときはできるだけ早く「思考記録表」に記入してください。

無意識の考えを評価する

記録して無意識の考えを見いだしたら、真実を歪曲(わいきょく)と不合理な考えと区別するために、無意識の考えを評価してください。どの程度まで無意識の考えが正当であるか決定するするため、考えに対する賛成と反対の根拠は何か考えてみてください。「思考記録表」の列4を最初の考えに賛成する根拠のために、列5を反対する根拠のために使ってください。

このアイデアの目的は、無意識の考えが真実であるという思考を一時忘れて、代わりに、賛成と反対の両方の根拠を探すことです。見いだした根拠を書き留めれば、あなたが考えから距離を置く助けとなり、考えがそれほど当たり前でなくなります。一歩引いて客観的に見ることによって、無意識の考えがどう事実を無視するか、あるいはどう状況の最悪の一面ばかり選ぶか、より容易に気づくことができます。

思考記録表 #2
1 2 3 4 5
出来事 感情 最初の考え 賛成 反対
30分散歩する。そのあと猛烈な疲労。 憂鬱。絶望的 もう絶対良くならない。何に挑戦してもいつも失敗する。 頻繁に再発する。運動するとしばしば具合が悪くなる。 全体的に1年前より良くなっている。多くの人たちが改善する。

感情が強まったときの考えには反論できないように思われるかもしれません。考えを支持しない根拠を見付けるため、自分に尋ねてみる幾つかの質問が頭にあると役立つかもしれません。その中でも以下の質問は役立ちます。

別の解釈を見つける

最後のステップで、自分が出合った経験の新しい解釈を提案します。「思考記録表」の列6に書くものは、経験の別の解釈(考えを否定したならば)、あるいは賛成と反対の確かな点を要約したバランスの取れた考え(根拠が混じったならば)のどちらかであるべきです。どちらの場合も、列6に書くものは、列4と列5に記録したことと矛盾するべきではありません。初めは、このプロセス(過程)は不自然で、わざとらしく思われるかもしれませんが、意味があります。より偏りのない現実的な説明スタイルを使えるように訓練しています。そして経験の習慣的解釈を別の解釈に置き換えることを学んでいるのです。

列4と列5に書いたものを再検討して、彼女は根拠が混じったと判断しました。彼女は列6に賛成の根拠と反対の根拠を組み合わせた偏りのない考えを書きました。「ぶり返しが頻繁にあり、継続的な改善があるかどうかはっきりしません。しかし、改善されつつあり、それは希望を与えてくれます」

思考記録表 #3
1 2 3 4 5 6
出来事 感情 最初の考え 賛成 反対 修正した考え
30分散歩する。そのあと猛烈な疲労。 憂鬱。絶望的 もう絶対良くならない。何に挑戦してもいつも失敗する。 頻繁に再発する。運動するとしばしば具合が悪くなる。 全体的に1年前より良くなっている。多くの人たちが改善する。 ぶり返しが頻繁にあり、継続的な改善があるかどうかはっきりしません。しかし、改善されつつあり、それは希望を与えてくれます。

積極的思考ではなく、現実的思考

3ステップのアプローチは深く心に根差した考えの習慣を変更する必要があります。この長期的結果は劇的です。しかし、改善は緩やかで、その過程には幾つかでこぼこがあるかもしれません。否定的考えに気づくと、短期間の落ち込みがあるかもしれません。

ここで示したプロセスは、否定的考えを、積極的だが不正確な考えに置き換える「必要はありません」。私が言いたいのは、「毎日、すべての点で、どんどん良くなっています」のようなモットーを取り入れろということではありません。もっと正確に言えば、目標は、正確でそれでもなお楽観的な方法で自分の置かれた状況を考えるようになることです。つまり、思考の習慣を訓練してより現実的な方向に変えるのです。

ここで推奨する考え方は、肯定的と否定的のすべての根拠を、現実的で偏りのないやり方でまとめるものです。この方法を使って自分の経験を理解すると、生活で否定的な側面を認識しますが、成功に対しては自分をほめます。このアプローチは、あなたが、体調が良くなり、不安感と悲しさを軽減するのを助けるので、ストレスを軽減するでしょう。同時に、あなたが疾患に効果的に対処するのを助けるでしょう。

習慣を変える

習慣になっている考えを変えることは、習慣的行動を変えることと関係しています。我々のプログラムの一人の女性が家事のやり方を変えました。彼女の例で説明します。健康だったときの彼女の考え方は「仕事が終わるまで働く」でした。線維筋痛症にかかったとき、彼女は、そのやり方では症状を悪化させるだけだと分かりました。彼女は、時間をかけて徐々に、以前の考え方を「疲れたらやめる」という考えに置き換えました。新たな考えは、掃除や料理の最中に休憩時間を取るというような新たな習慣を作り上げました。そして新たな習慣は彼女にコントロール感をもたらしました。

習慣の変化は気づくことから始まります。この女性にとって気づくこととは、生活の中で線維筋痛症を持つようになって、家事に対する古い考え方が達成感をもたらすのではなく、症状の悪化と無力感をもたらすという認識でした。この段階では、習慣の変化が目標ではなく、古い習慣を継続した結果に気づくことです。

習慣の変化の2番目のステップは、別の行動を創出することです。例では、新たな行動は「疲れたらやめる」でした。このステップで成功するカギは前もって反応を計画しておくことです。そうすれば事態が起きても、以前と違った行動ができます。

行動を変える一つの方法は、一連の個人的な規則を作り、それを守ることです。規則は、ある状況下で自分がすることを詳しく説明します。例えば、自分がどれくらいの時間パソコンを使うか、どれくらい運動するか、どれくらい遠くまで車を運転するか、夜何時に就寝するか、日中のいつどれくらい休息するか、どれくらいメディアに触れるか、どれくらいの時間社交の場にいるかなどについて個人的な規則を設定します。規則は、もし/ならば、の構造を作ります。例えば、次のようになります。

規則は計画された反応です。そして古い習慣的行動に代わるものとして使います。時間をかけて徐々に、新たな行動は習慣になります。個人的な規則の詳細については、前章を見てください。

習慣の変化の3番目のステップは、考えに焦点を合わせます。そして我々の心の台詞(せりふ)を書き直すことが必要です。例では、「この仕事を終えなければなりません」という考えは、「このまま続けたら、ベッドの中で1時間過ごさざるを得なくなるでしょう」あるいは「疲れてきたので、今休憩するつもりです」のような考えに置き換えられるでしょう。古い習慣を打ち消すために作り出す考えは、古いやり方を続けた結果(症状の悪化)を思い出させるか、あるいは代案(コントロール)をより確実にします。

心の台詞を変える部分では、自分自身に対する見方を別の言い方で表現し、前向きな行動を支持します。例えば、我々のプログラムの一人の女性は、休憩時間を取ることに対する自分の見方を変えました。以前、日中横になることに対して、彼女は自分の意思が弱いからだと心の中でつぶやいていました。今、彼女が休息するときの心の中のつぶやきは、「私は自分が健康であるのを手伝っています。私は夫と一緒に時間を過ごすため、あるいは孫の子守をするためにエネルギーを節約しています」に変わりました。

習慣の変化の4番目のステップは支持です。我々の状況を理解して、我々の変わろうとする努力を支持してくれる人たちが、我々の周りにいてくれることです。支持を得るには、CFSと線維筋痛症について、我々の生活にかかわる人たちを教育する必要があるかもしれません。我々は、カウンセラーからはもちろん、CFSとFMの他の人々からも支持を得ることができます。

更新日:ペンディング

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