慢性疲労症候群 & 線維筋痛症を管理する方法
出典:Managing Chronic Fatigue Syndrome and Fibromyalgia: 2010 edition
on ME/CFS & FIBROMYALGIA Self-Help
第9章 ペーシングの戦略
前章では、自身を「CFS/FM評価尺度」で評価し、略述したテクニックを使って自分の制限を見付けました。次の段階で自分の制限に適応します。これは漸進的な過程で、ふつうは数年の期間を要し、多くのペーシング戦略を使うことが必要となります。以下に、検討すべき10の戦略があります。試行を繰り返して、うまくいく組み合わせを見付けてください。
活動レベルを下げる
制限に適応するための主要戦略は、全体の活動レベルを下げることです。これは2段階の過程とみなすことができます。第1の段階で、自分がどれくらい活動を削らねばならないかを決めます。例えば、自分がいつもの1週間で行う活動を一覧表にして、それぞれの活動に要する時間を見積もります。その次に、この時間を合計して、合計したものを「評価尺度」あるいは前章のエンベロープの演習を使って設定した制限と比較します。もし一覧表の項目が、自分の制限の時間よりさらに時間が必要ならば(例えば、1日6時間活動したいが、自分の体が4時間しか許さない場合)、エネルギーエンベロープ内にとどまるため、項目をいくつか修正しなければならないことになります。
第2の段階で、「委任する」「簡単にする」「除く」を組み合わせて、活動レベルを下げます。「委任する」とは、かつて自分がしていた作業をしてくれる誰かを見付けることです。例えば、食事の用意あるいは食料品の買い物を家族で分担してもらえるかもしれないですし、清掃サービスに大掃除を引き継いでもらうこともできます。頼みの綱として、家族や友人、雇い人、あるいは宗教団体・社会奉仕団体などの地域社会の人間を使う手があります。「簡単にする」とは、作業はやり続けるけれども、もう入念にあるいは完璧にやらないことです。例えば、以前ほど頻繁に家を掃除しなかったり、手の込んだ料理を以前ほど作らなかったりします。最後に、幾つかの活動あるいは人間関係を「除く」ことが可能です。例えば、ボランティアの仕事から身を引いたり、幾つかの交友関係を一時保留したりできます。
休息を予定する
毎日、予定された休息を取る(休息を計画して、計画的に休息する)ことで、症状を軽減して、生活の安定を得て、総休息時間を短縮することができます。激しい症状から回復する方法として取る休息「回復休息」とは対照的に、予定された休息、あるいは「先制休息」は、急な再発を予防し、プッシュ・アンド・クラッシュの循環を断ち切るための戦略です。
先制休息は、日々の予定にいくつか休憩時間を組み入れることを意味します。休息の時間、回数、やり方は人によって全く違います。多くの人たちが15分から30分の休息を1、2回取ります。重度のCFSあるいはFMの人たちは、1日に短時間の休息をたくさん取ると役に立つかもしれません。例えば、1 、2時間ごとに10分から15分の休息を取ります。
最大の恩恵を得るためには、自分の調子がどうであれ休息を日課の一部として取り入れ、一貫して続ければいいのです。気分が良いときは休息を省きたくなるはずです。そのようなとき、こう自分に言い聞かせると役に立つかもしれません。自分が予定された休息を取るのは症状を予防して、さらに多くの休息が必要になるのを防いでいるのだと。決まった予定に従って休息することは、ただ具合が悪かったり疲れていたりするときだけでなく、症状に応じた生活をすることから計画された生活を送ることに変わるのに欠かせません。
多くの人たちは、静かな場所で目を閉じて横になって休息するのが最も効果的であると分かりますが、音楽を聴いたり安楽椅子に座ったりして休息する人たちもいます。先制休息を使いはじめると、考えごとが休息のじゃまをすると分かるかもしれません。そのようなとき、試しにリラクセーション法を用いてみたり、CDを聴いてみたり、もしかしたら本を読んでみたりするのもいいかもしれません。自分の考えごと以外のものに意識を集中することで、気持ちがリラックスして、休息しやすくなるでしょう。
目を閉じて横になる休息は、我々のプログラムの人たちが使う戦略の中で最も人気のあるもののひとつです。最も重要なことは、正常な活動を中断して休憩することと、静かな場所を設けることです。我々のコースを受講した女性が休息の体験を次にように言いました。「テレビを観る、電話で話す、家族と話す……これらのことが実際はひどく疲れるということを学びました。たとえ横になってしていてもです。目を閉じる休息は全くの別ものです。そしてそれはとても役に立ちます。このコースを受講する前は、私は休息していると『思い込んでいた』だけでした。今私にとって休息は(テレビを観ないで電話をしないで)目を閉じて横になることを意味します」
予定された休息は人気のあるエネルギー管理戦略です。なぜなら、簡単で分かりやすく、すぐに効果をもたらすからです。生活のさらなる安定、症状の軽減、より大きなスタミナをもたらします。我々の自助コースを受講した女性が、彼女のグループに言いました。「私は予定された休息を日々の予定に2回取り入れることに決め、その結果にびっくりしています。症状と疼痛が減って、もっと『思いのままになる』と感じています。睡眠の質も良くなってきたし、気分さえ改善しました。別の一人は「私は、活動と活動の合間に休息してきましたが、ときには5分間だけのこともありました。病気になってから4年半ぶりに、症状の管理と予想どおりの生活ができるという気がします」と言いました。
上述のように、一部の人たちは1日に1、2回の休息を取るよりも、数回の先制休息を取る方が役に立ちます。このことを試してみた女性がいます。彼女は、ほぼどんな労作でも疲れてしまう重度のCFSでした。あたかもバッテリーがとても速く上がってしまい、頻繁な充電が必要なようでした。彼女は短い休息時間を頻繁に使うことにより、総休息時間を劇的に短縮することができました。
我々のコースを受講する前、彼女は3時間の昼寝を2回して1日6時間休んでいました。先制休息について学んだあと、彼女は1日の活動時間を1時間か2時間に区切り、活動時間の合間に10分から15分の休息を取ることに決めました。2カ月の間に、彼女の総休息時間は1時間半減りました。6カ月後、彼女の総休息時間は1日3時間にまで減りました。短時間の休息を多くとることにより、彼女は症状を増やすことなく、活動時間を3時間増やしました。
もしあなたが先制休息をやってみたいのならば、静かな場所で横になることから始めてください。もしこれがうまくいかなければ、休息を別の方法で試みてください。休息している間に寝入ってしまうのならば、それは自分の体がもっと休息を必要としている証拠です。睡眠ログ(日誌)をつけることにより、体が必要とする休息を明らかにできます。
個々の活動に制限を設ける
次の戦略は、特定の活動に制限を設けることです。これは、自分がやっていることを完全にやめること、あるいは何かに費やしている時間を減らすことを意味し、そうすれば症状が強くなる前にやめる(「倒れる前にやめる」)ことができます。前者の実例は Eunice Beck の記事 “Making a NOT TO DO Lists”(「NOT TO DOリストを作る」)にあります。もうしたくないことのリストを作ることにより、自分の「するべき」リストからするべきことを外すことができるようになり、自分が罪悪感を抱くことなく活動を完全に取り去ることができます。「しないこと」のリストがあれば、自分の健康を守るための措置を講じる正当な理由ができます。 Eunice Beck は自分の「NOT TO DO」リストに「自ら進んで申し出ない。人の言いなりになって、知っている用事をすれば、エネルギーレベルと疼痛にとって負担になる」を含めています。
特定の活動に制限を設ける例は、 Bobbie Brown の記事 “25 Reasons Why I've Improved”(「私が良くなった25の理由」)で見ることができます。記事の中で、彼女はどのように機能レベルを正常の約15%から約35~40%まで引き上げたかを説明します。 Bobbie の25項目の一覧表のうち2項目は薬についてですが、残りの項目のほとんどは日々の習慣や日課についてです。彼女はペーシングのテクニックを使います。通常の休息および予定された休息を取る、制限内で生活するなど、実際、項目のおよそ半分は彼女自身に制限を設けるテクニックで、例えば、車の運転、パソコンを使う時間、電話で話す時間、感覚入力、付き合い、家事、旅行などに制限を設けています。
個々の活動に制限を設けるには、2段階の手順を踏みます。まず、前章で説明した方法を使って、試行して自分の制限を見付けます。そして次に、徐々に活動を調整して制限内におさめます。例えば、制限を設けることができるのは、どれくらいの時間立っているか、どれくらいの時間または距離車を運転するか、どれくらいの時間パソコンや電話を使うか、どれくらいの時間付き合いに費やすか、家からどれくらい離れて旅行するつもりか、どれくらいの時間家事をするか(あるいはどの家事をするか)。一部の人たちは制限を守るのにタイマーが役立つと分かります。
活動時間を短くする
全体の活動レベルを制限して症状をコントロールすることに加えて、活動の「しかた」を調整することにより、症状に影響を与えることができます。作業を二つの短時間の作業に分け、その合間に休憩することでより生産的になり、分けない場合と同じ時間を過ごしてもそれほど症状を感じないでいられます。野菜を切り刻むように作業をしてください。一部の人たちは10分で作業をやめるならば痛みを感じないかもしれませんが、その制限を超えて作業を続けると1、2時間続く痛みを感じるかもしれません。
これと同じ原理は、さらに長い期間にも当てはまります。例えば、たくさんの活動を1、2日でしようとするのではなく、活動をその週にわたって行えば、全体の症状レベルがより低くなると分かるかもしれません。
非常に短い活動時間でも多くのことを成し遂げることがまだ可能であることを、我々のプログラムの一人が明らかにしています。CFSのせいで活動をひどく制限されたこの女性は、二つの文書を翻訳するように頼まれました。彼女は試行して、自分で具合が悪いと感じるまで、1回にほんの15分間だけパソコンで仕事ができると分かりました。彼女は、それぞれ15分の仕事を1日4回して、合計が1時間になるようにしました。そして、5カ月で二つの文書の翻訳を完成させました。後に、彼女は労働時間を1日4回から8回まで増やすことができました。
活動を切り替える
さらに多くのことを成し遂げる別の戦略は、ある一つのタイプの活動から別のタイプの活動に切り替えることです。例えば、身体活動・精神活動・社交活動の間で切り替えます。パソコンを使っていたら疲れたと気づいたとしたら、そこでやめて友人に電話したり、キッチンに行って夕食を作ったりします。
作業の切り替えを使うもう一つの方法は、まず活動を困難別のカテゴリーに分けます。そして、異なるカテゴリーの中から活動を選び出して頻繁に切り替え、最も負担が大きい活動を1日にほんの数個だけ予定します。ある一人が言いました。「私はまず、活動を軽い・中くらい・重いに分けて、次に、異なるカテゴリーの活動を交互に行えるように1日の計画を立てます。こういうふうに自分のペースでやることで、前よりもっと多くのことをして、症状を最小限にすることができます。実際、今1日にこなせる量にびっくりしています」
置き換えの法則(飼い葉おけの豚)
「あともう一つ」をすることは容易ですが、これはしばしば症状をより強めてしまいます。これを解決するには、追加ではなく置き換えることを考えます。自分の予定表に新たな項目を入れるためには、予定を一つやめなければなりません。例えば、制限では週に3回家を出ることができて、何か新たなことが起こるならば「週に3回」の制限を実地するために、いつもの遠出の一つを延期する手段を見付けてください。この戦略は“pigs at a trough”(飼い葉おけの豚)と呼ばれることがあります。飼い葉おけのそばの空間は限られています。新しい豚が入ることができる唯一の方法は、割り込んでもう一匹の豚を押し出すことです。
時間帯に注意を払う
CFSやFMの多くの人たちは、1日に調子の良い時間帯と調子の悪い時間帯があると分かります。午前中に具合が良い者もいれば、もっと遅い時間帯に元気になる者もいます。「いつ」活動するかを変えることによって、症状を強めることなくより多くのことができるでしょう。そうすれば最も良い時間帯を最も重要な作業あるいは最も負担のかかる作業に使うことができます。
おそらく最も多いのは、時間が経過するにつれて徐々に良くなっていき、夕方に減速するパターンでしょう。しかし、朝が最も良い時間帯という患者もいれば、夕方が最も良い時間帯という患者もいます。重要なのは「あなたの」最も良い時間帯を見付けることです。我々のプログラムの一人が運動について書いています。「夕方に歩くと、何とか2ブロックは歩くことができますが、3ブロックだったら私はへたり込んでしまいます。日中早いうちなら3ブロック以上歩くことができます。朝の8時から11時までは、精神的にも身体的にもたいていの活動に適しているので、私はこの時間帯のスケジュールを空けています」
別の学生は頭にかかったもやの影響に悩んでいました。彼女は、頭にかかったもやの影響で、読書してその内容を記憶していることが困難でした。午前中に勉強すると、彼女は1日にほんの30分だけ読書することができましたが、読んだことを覚えているのに苦労しました。そこで、午後に勉強してみることに決めました。すると、短い休息を取って午後始めれば、数時間分の十分な精神的スタミナがあることが分かりました。休息のあと、彼女は短い休憩を挟んだ30分の読書を2回して、内容を覚えていることができました。やがて彼女は勉強時間を1日合計2時間まで増やしました。一日の時間帯を試行することによって、彼女は勉強時間を大いに増やすことができ、また、彼女の理解力も高まりました。
感覚入力をコントロールする
CFSやFMの多くの人たちは知覚情報、特に光と音の感受性の増加が見られます。この人たちは、あまりにも多くの感覚入力がありすぎると集中力に影響が出ます。このことがあなたに当てはまるならば、一つのことに集中し、生活環境を簡素にすれば、より多くのことを成し遂げ、症状レベルをさらに低くすることができるかもしれません。例えば、読書するときにテレビを消したり静かな場所に移動したりすれば、読んだものをより良く理解できるかもしれません。レストランのやかましさがじゃまになるならば、試しに店が忙しくない時間に行ってみます。大人数のグループが難しいと思うならば、試しに数人だけで集まってみます。メディアがじゃまならば、メディアに触れる時間を制限するか、あるいはTVを観たり、ラジオを聞いたりするのを控える「メディア断食」を行います。
できるだけ座る・機器を使う
立っている間に疲れたりふらついたりするならば、いつでもできるだけ座ることを考えてください。例えば食事を作るときやシャワーを浴びている間がそうです。(後者にはプラスチックス製のスツールを、前者には背もたれの付いた椅子を使ってください)。自分に役立つ機器を使うことで、より多くのことを成し遂げる、あるいは症状を予防する、もしくはその両方ともできるかもしれません。
CFSやFMの一部の人たちで、長い間立っていることができない、あるいは感覚入力に敏感である、もしくはその両方の人たちは、スクーターあるいはモーター付きカートを使うと、買い物がより容易になると分かります。多くの大型ストアがこのような機器を備えていて、無料で利用できます。我々のプログラムの一人が、スーパーマーケットでモーター付きカートを使って劇的な効果があったと報告しました。カートを使う前、彼女は週に1度の食料品の買い物でとても疲れ、店から戻るとすぐに2時間横になって休んでいただろうに、カートを使って買い物をすると、彼女は買い物のあとに休息が全く必要なかったのです。
楽しいことを続ける
慢性疾患を抱えた生活ということは、不快感とフラストレーションがずっと続くことになります。楽しい活動がフラストレーションとストレスを減らし、症状を紛らせ、楽しみにして待つものを作ってくれます。例として、入浴、友人との会話、音楽鑑賞あるいは楽器演奏、映画鑑賞、自然の中で時間を過ごすこと、読書などがあります。楽しい経験をすることで、制限を受け入れてその範囲内で生活することがより容易になるので、これらすべてはペーシングの戦略と考えられます。
制限を受け入れることについて
ペーシングでは新しい習慣を身につけることになりますが、生活が変わったことを受け入れることに基づいた心的適応も必要です。この受け入れにより、体に対する関係が以前とは違ったものになります。我々のプログラムの一人は「自分の体がストップあるいは速度を落とすように命ずるときに、自分の体が発するシグナルを無視しようとすることから、シグナルを注意して聞くまでの考えの転換」だと表現します。
この「転換」の一部は、自分の心の対話(心の中のつぶやき)や期待を変えていくことになります。それは、罪悪感を作り出すのではなく、疾患を抱えてうまく生活しようとする試みを下支えします。例えば、我々のプログラムの一人は、昼寝をすると、以前は、自分は怠け者であると思ったと言います。今、彼女は休息するとき心の中でつぶやきます。「私は自分が健康でいるのを手伝っているの。夫と時間を過ごすため、孫の子守りをするため、エネルギーを節約しているの」。別の一人は言います。「私は今、慢性疾患にかかっていて、この疾患はこれまでもこれから先も続くだろうし、暮らし方をずいぶん制限するという事実を受け入れる。今、私は『半端な生活』を送っているけれども、私にできる最も良い『半端な生活』にするつもりだ」